« ヨコハマ・天使の街(1)〜黄金町異界の消滅 | トップページ | ヨコハマ・天使の街(3)〜山崎洋子「天使はブルースを歌う」<下> »

2010年9月26日 (日)

ヨコハマ・天使の街(2)〜山崎洋子「天使はブルースを歌う」<上>

◆山崎洋子の「天使はブルースを歌う~横浜アウトサイド・ストーリー」(1999年・毎日新聞社)を知ったのは、本当に偶然だった。
あるタレント本を探しに紀伊国屋書店新宿本店6階の芸能コーナーを訪れた際、ふと目に留まったのだ。
なんとなく手に取って読み始めたら、ページを繰る手が止まらなくなった。全く私の知らないヨコハマが、そこにあった。

◆横浜在住のミステリー作家である山崎は、ある日、白塗りの老娼婦「メリーさん」を目撃し、彼女の姿に「ブルース」を感じたことをきっかけに、横浜の裏の顔に気付いてゆく。
そして、メリーさんを調べるうち広がった人脈の一人である評論家・平岡正明の「あなたの小説にはブルースが足りない」という一言がきっかけで、彼女は伝説のブルースアーティスト・エディ藩と知り合う。
彼は中華街に生まれた華僑であり、60年代横浜本牧出身のGSバンド・ゴールデン・カップスのギタリストとして一世を風靡した存在だった。彼の音楽に魅了されつつも「歳月の泥がびっしり詰まったような」彼の存在感にたじろぐ山崎。

◆やがて彼女はエディ藩から、横浜根岸外人墓地に眠るという、混血の嬰児たちの慰霊碑建立のためのチャリティーソングの作詞を依頼される。
山崎は、彼ら嬰児たちを「メリーさんの子ども達」とイメージングし、チャリティーソング「丘の上のエンジェル」の詞を手がけた。
しかし、墓地を管理する行政側は、墓地への嬰児たちの埋葬の事実を頑として認めようとしない。
それがきっかけで彼女は、敗戦後の米軍駐留期から始まる横浜戦後史の光と影を、そしてメリーさんやゴールデン・カップスの面々をはじめとする、時代を彩った横浜のアウトサイダーたちの歴史と現在を追いかけ始めることになる・・・。

◆同じヨコハマの外人墓地でも、山手墓地に比べるとはるかに知名度の低い根岸墓地に眠る嬰児たちの多くは、敗戦後様々な形で、米兵や軍関係者たちと、日本人の女性たちー例えばその中にはメリーさんの様な米兵相手の娼婦女性も多かっただろうーの間に生まれた混血児、所謂GIベイビーだったと思われる。

ゴールデン・カップスのメンバーの一人であり、後に「ピンク・クラウド」などでも名を馳せるベーシスト/ギタリストのルイズルイス加部も、そんなGIベイビーの一人であった。
(因みに山崎は初めてライブで加部を目撃した際、中年になっても衰えぬ彼の混血ならではの美貌に目を奪われ「キリストのよう」な「メランコリックな美しさ」とまで書いている。)

◆そして1960年代、加部やエディ藩、デイヴ平尾ら、のちのゴールデン・カップスメンバーが出演するようになったのが、本牧のライブハウス、その名も「ゴールデン・カップ」だった。

当時本牧地区は米軍に接収されており、ベトナム戦争から一時帰休した米兵たちがつかの間の休暇を楽しむ場所だった。米兵相手の店が立ち並び、東京よりも早くアメリカの音楽や文化が入ってくる、当時日本で一番「ホット」な地区が本牧や中華街だった。華僑の息子であり比較的経済的に恵まれていたエディをはじめとして、メンバーらはごく自然に最先端の音楽に親しんでいたのだ。「ゴールデン・カップ」には、彼らの演奏を見に、東京から内田裕也やスパイダースの面々らも訪れたという。

◆バンドはまもなくスカウトされ、ライブハウスの名を冠し、全員がハーフという売り文句で(実際には違う)1967年にデビューする。

「ついこの間まで差別の対象でさえあったのに、成長した混血児は欧米礼賛の風潮にのり、容姿の欧米っぽさ,リズム感の良さなどで、今度は憧れの対象になったのである。全員ハーフということにされてしまったゴールデン・カップスは,まさしくあの時代の象徴と言えるだろう。」

ゴールデン・カップスは「いとしのジザベル」「長い髪の少女」などプロの作家が作った歌を歌いヒットを飛ばし一躍アイドルになるが、ライブでは日本語詞を決して歌わず、本場のブルース・ロックを指向した。プロ意識も希薄で、喧嘩も絶えなかったという。
そしてGSブームは長く続かず、バンドは1971年限りで解散し、各メンバーの流転が始まる。
そしてそれは、それまで日本におけるファッションや音楽の最先端であったヨコハマの凋落を予言するものでもあった・・・。

<下>へ続く)


« ヨコハマ・天使の街(1)〜黄金町異界の消滅 | トップページ | ヨコハマ・天使の街(3)〜山崎洋子「天使はブルースを歌う」<下> »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« ヨコハマ・天使の街(1)〜黄金町異界の消滅 | トップページ | ヨコハマ・天使の街(3)〜山崎洋子「天使はブルースを歌う」<下> »

無料ブログはココログ
2019年3月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

zenback